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3 どのような場合に自己破産を選択すべきか

(1) 法人の場合

(イ) 再建型か清算型か
再建型手続を選択すべきか、清算型手続を選択すべきかは、まず、再建の見込みがあるかどうかを検討した上で、再建の見込みがある場合にも、再建型手続を選択するのが現実的・合理的かどうかを検討して判断することになります。
(a) 再建の見込みがあるかどうかの検討
再建の見込みがあるかどうかの判断は通常、破産した場合よりも再建した方が債権者により多くの弁済をすることができるという具体的な根拠がある再建計画をたてられるかどうかにかかっています。
破産した場合よりも再建した方が多くの弁済を受けられるということを、具体的な根拠を示して説明すれば、債権者は通常、再建に協力してくれます。
逆に、再建計画よりも破産した場合の方が多くの弁済を受けられる場合はもちろん、再建計画に具体的な根拠がない場合には、債権者は通常再建に協力してくれません。
具体的には、以下の点を検討することになります。
1) 清算貸借対照表
清算・破産した場合の債権者への配当金額を把握するために、通常の会計処理に基づく貸借対照表ではなく、資産を現実に処分または回収可能な価額(清算時価といいます)で評価し直し、負債も現実に支払うべき金額に基づく「清算貸借対照表」を作成する必要があります。
清算・破産した場合の債権者への配当金額を上回る弁済をなしうるだけの再建計画(再建を前提とした弁済計画)を作成できない場合には、再建は困難であると判断することになります。
2) 収益シミュレーション
再建型の手続は、債務の減免についての債権者の多数の同意が必要となります。債権者にとって、債務者の再建に協力する意味・合理性は、債務者が清算する場合よりも再建を果たした方が多額の弁済を受けられるという点にあります。したがって、債権者への弁済原資となる再建による収益の予想額・シミュレーションは、再建の見通しを判断するにあたって必要不可欠です。
そして、現実に弁済原資となるのは、会計上の利益ではなく、あくまでも余剰資金です。
ですので、この収益シミュレーションを検討するにあたっては、資金繰りシミュレーションも作成した上で、これらを基に再建の見通しを判断しなければなりません。
収益シミュレーションの内容としては、営業利益が現状では赤字であっても再建が不可能というわけではありませんが、リストラや不採算事業からの撤退などにより黒字になるようなものでなければなりません。
なお、これらのシミュレーションにあたっては、債務整理手続を行うこと自体による売上の減少などの影響も考慮しておく必要があります。
清算した場合よりも多額の弁済をなしうるだけの収益シミュレーションが立てられない場合には、再建は困難と判断することになります。
3) 資金繰りシミュレーション
日々の資金繰りがつかなければ、再建はおぼつかないでしょう。
したがって、資金繰りのシミュレーションは非常に重要です。
実際に債務整理手続に入ると、その直後から、平常時であれば回収できる売掛金さえも回収できなくなるなどにより、足下の資金繰りが厳しくなることが多いので、日繰りの資金繰りシミュレーションを立てることも必要です。
この資金繰りシミュレーションにあたっても、債務整理手続を行うこと自体による影響を考慮する必要がありますが、特に法的債務整理の申立をした場合には、売上に対する影響はもちろんのこと、代金の同時決済が要求されるなど、申立前とは全く異なる資金繰りになることに注意しなければなりません。
資金繰りの見通しが立たない場合には、再建は困難と判断することになります。
4) 債務者の事業内容
一般に、債務者の支払能力に対する信用が売上を確保するための大きな要素になっているような業種や競争が激しい業種では、債務整理を行った場合の事業価値のダメージは大きいといえます。
他方、債務者の技術・サービスの質や債務者が保有する施設などが売上確保の大きな要素になっている事業では、債務整理を行っても事業価値が受けるダメージは比較的に低く済むことが多いといえます。
したがって、前者のような場合には、債務者の支払能力に対する信用を補うためにもスポンサーを見つけることが重要になります。
この場合に、スポンサーが見つからない場合には、再建は一般に困難になることが多いといえます。
5) 破綻に至った原因
経営が破綻に至った原因が、不動産投資や財テクなど過去のものであったり、または、合理化などにより除去可能なものであれば、再建の可能性は高いといえます。
逆に、構造的に不況に陥っており、黒字化する手段もないなど、破綻に至った原因の除去が難しい場合には、再建は困難ということになります。
6) さまざまな利害関係人の意向
イ. 債権者
債権者は、最大の利害関係人であり、その意向は、再建計画の作成可能性、再建計画への同意の取得、取引継続のあらゆる局面で重要となります。
特に、金融機関は、通常、担保権者であるとともに大口債権者であることが多く、金融機関の同意が再建計画の成立にあたってネックになっています。
大口債権者や事業を継続する上で重要な取引先などの債権者から同意を得られない場合には、再建は困難です。
ロ. 担保権者
担保権は、民事再生の場合には手続外で行使できるとされ、また、会社更生においても、最低限、清算して担保物件を処分した場合の価額相当額は弁済しなければならないとされています。
したがって、事業の継続・再建に必要な物件に設定されている担保権がある場合には、その対象物件の価値に見合うだけの弁済原資が得られる再建計画を作成し、担保権者の協力を得られる見込みがあることが必要です。
こうした担保権者の協力の見込みがない場合には、再建は困難となります。
ハ. 従業員
従業員への給与が支払えなければ、通常、その時点で事業の継続・再建は不可能といえます。
また、合理化や事業譲渡などにより従業員が退職することを前提とした再建計画を作成する場合には、退職金全額の支払いが必要となりますが、その一方で、一般の債権に対して弁済ができないような計画は、債権者集会において可決される可能性が低いといわざるを得ません。
したがって、一般債権に対する弁済と退職金の支払いが両立できるような再建計画を作成しなければならず、これができない場合には、再建は困難ということがいえます。
ニ. スポンサー
一括弁済のための資金を確保したり、信用力を補完したりするために、スポンサーの支援を得ることが再建にとって重要なことが多いといえます。
収益力の高い会社の場合は、法的手続の申立をすると、スポンサーが名乗りをあげることが多いので、問題は少ないですが、資金繰りが厳しく、申立後の事業価値のダメージが早い会社では、直ちにスポンサーを得られないと、再建は困難といえるでしょう。
(b) 再建型手続を選択するメリットの存否の検討
再建の見込みがあると判断される場合にも、自己破産を利用した事業再建スキーム、すなわち、自己破産の手続内で採算部門を事業譲渡して不採算部門を清算すること(7 自己破産を利用した事業債権スキーム(法人の場合)をご参照ください)が可能な場合、これと再建型手続とを対比した以下のようなメリットとデメリットを考慮して、どちらが現実的ないし合理的かを検討する必要があります。
1) 自己破産を利用した事業再建スキームのメリット
自己破産を利用した事業再建スキームには、再建型手続と比べて、以下のようなメリットが考えられます。
イ. 自己破産を利用した事業再建スキームの場合、税金を含めて債務が全 て帳消しになり、採算部門のプラスの資産だけを譲渡し、従業員の雇用を含めて、その事業の存続を図ることができるという点です。
一方、再建型手続の場合には、税金は一切帳消しにならない(交渉次第で納付期限の猶予が認めてもらえるにすぎません)上、その他の債務も一部カットと分割払いが認めてもらえるだけです。
再建の見込みの判断は、この点も考慮した上でなされるべきものですので、債務が全部帳消しにならないことは再建計画の策定にあたって当然織り込み済みのはずですが、数年に及ぶ再建計画の期間中に、税金などの債務の計画弁済が当初の想定を超えて負担となってくることがあります。
その意味で、税金などの債務が全て帳消しになることは、やはり自己破産を利用した事業再建スキームのメリットといえます。
ロ. 自己破産を利用した事業再建スキームの場合、東京地裁などで一般的 になっている少額管財事件の処理によれば(ただし、弁護士が代理人となっていることが必要)、申立時に裁判所に納める費用は一律に20万円程度で済み、申立から全ての手続の終了までの期間が6か月程度で済みます。
他方、民事再生の場合、裁判所に納める費用は、負債総額が5000万円未満で200万円、5000万円~1億円未満で300万円、1億円~5億円未満で400万円(以下省略)とされ(東京地裁の場合)、会社更生の場合も裁判所が事件の規模などを考慮して決定しますが、通常、民事再生の場合以上になることが予想されます。また、申立から全ての手続の終了までの期間は通常、数か年に及ぶことになります。
ハ. 自己破産の手続内で採算部門を事業譲渡するために必要な手続は、裁 判所の許可と労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)の意見聴取だけです。
この場合、事業の対価の評価が適切になされておれば、通常、速やかに裁判所の許可がなされます。
一方、再建型手続の場合、再建を果たすためには、民事再生、会社更生の場合は債権者の多数の同意が、任意整理の場合は全債権者の同意が必要となります。
また、民事再生、会社更生、任意整理の場合にも、その手続内で事業譲渡を行うことは可能ですが、民事再生と会社更生の場合には債権者の意見聴取の手続が必要とされている(会社更生の場合で債務超過でないときは株主の意見聴取も必要とされています)上、任意整理の場合には事実上全債権者の同意が必要となります。
民事再生と会社更生の場合の債権者の意見聴取の手続は、具体的には、東京地裁の場合、債権者集会を開催し、そこで反対派が多数を占めるかどうかを確認した上で、監督委員ないし管財人の意見を聴いて許可すべきかどうかを決定しています。
このため、再建型手続の中で行う事業譲渡は円滑に進まない可能性があります。
ニ. 再建型手続の中で、その企業の全部の事業を譲渡する場合や、その事 業がその企業の中核部門であるなど、その事業譲渡によってその企業が存続できなくなる場合には、通常、事業譲渡した企業は結局、解散決議を経て清算することになります。この解散決議の要件は、議決権総数の過半数を保有する株主が出席し、かつ、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数の賛成が必要です(特別決議)。
ところが、株主間で感情的な軋轢がある場合、持株組合があり社員が多数で株主の意見集約が困難な場合、株主が散在している場合などに、解散決議を行うことは実際的ではなく、会社の解散・清算が頓挫してしまうおそれがあります。
この点、自己破産を利用した事業再建スキームの場合、このような解散決議は必要ありません。
2) 自己破産を利用した事業再建スキームのデメリット
自己破産を利用した事業再建スキームには、再建型手続と比べて、次のようなデメリットが考えられます。
イ. 自己破産を利用した事業再建スキームの場合、譲渡した事業の経営に 現経営陣が関与できないというデメリットが考えられます。
一方、民事再生や任意整理の場合には、現経営陣が従来どおり経営に関与することが可能です。
ただし、再建型手続の場合にも、会社更生の場合は現経営陣は法律上当然に会社の経営に関与できなくなりますし、民事再生や任意整理の場合にも減経営陣が経営責任として金融機関などの債権者から辞職を求められることがあります。
ロ. 自己破産を利用した事業再建スキームの場合、実際に事業譲渡を行う 権限を有するのは破産管財人であり、しかも裁判所の許可が必要となりますので、債務者自らが事業譲渡による再建を前面に立って主導することはできないというデメリットが考えられます。
そのため、債務者としては、破産管財人が選任される当初の段階から、事業の譲渡先となるスポンサーの存在や事業譲渡により破産財団(債権者への配当原資となる債務者の財産)が増大することなどを説明し、破産管財人が速やかに事業譲渡を行ってくれるよう働きかけをするとともに、裁判所が速やかに事業譲渡の許可をしてくれるように、事業譲渡の対価が適正であることを理解してもらえるよう十分な説明資料を準備しておくことが必要です。
もし、破産管財人ないし裁判所を動かすだけの十分な説明ができない場合には、事業譲渡を実行できないまま、会社が清算されてしまう可能性があります。
もっとも、この場合でも、民事再生や会社更生によることが債権者一般の利益になるときは、破産手続の開始後であっても、債務者の申立によって民事再生や会社更生に移行することが可能です。
3) 自己破産を利用した事業再建スキームの条件
自己破産を利用した事業再建スキームは、次のような条件を満たしていることが重要です。
イ. 自己破産の申立前から事業の譲渡先となるスポンサーの目途が付いていること。
ロ. 事業譲渡の対価が、その事業に属する資産をバラバラに処分して換価した場合よりも多くなること。
(ロ) 自己破産か清算型任意整理か
(a) 清算型任意整理のメリット
清算型任意整理には次のようなメリットがあります。
1) イメージ上のメリット
破産や民事再生などの法的手続には、倒産というイメージがどうしてもつきまとう上、情報が公表されるリスクがあるため、顧客からの信用やブランドイメージが損なわれる場合があります。
これに対して、任意整理の場合、倒産というイメージが弱く、関係者が秘密を保持しさえすれば公表されるリスクも抑えられるため、経営不振の子会社を清算・解散する場合に適しているといえます。
2) 手続上のメリット
破産や特別清算などの法的手段の場合と異なり、任意整理には決まったルールのようなものがないため、債権者が同意してくれる限り、柔軟に交渉を進めることができます。
(b) 清算型任意整理のデメリット
清算型任意整理には、以下のようなデメリットがあります。
1) 債権者の同意取得の困難性
清算型任意整理の場合、債権者に債権を放棄してもらうよう全ての債権者から個別に同意を得る必要がありますが、このような同意を得ることが困難であることは言うまでもないところ、あくまでも任意に同意を求めることができるにすぎず、同意を強制する手段がありません。
金融機関など上場会社の場合、本来回収できたはずの債権を任意で放棄したとして経営陣が株主代表訴訟を提起されるリスクがあるため、一般に、任意での(すなわち法的手続によらない)債権放棄には応じない傾向があります。
債権者の中に同意を得られそうにない者がいる場合や、債権者の数が多い場合には、任意整理を選択することは困難といえます。
2) 期間の長期化
債権者の同意を得るために、債権者と個別に交渉しなければならないため、法的手続をとる場合よりも時間がかかることが多いという難点があります。
3) 不公平性・不透明性
任意整理には裁判所が関与せず、決められたルールもないため、不公平・不透明な債務整理が行われる可能性があります。このことも債権者が任意整理に応じようとしない理由の一つとなっています。
4) 個別執行の可能性
任意整理では、債権者からの個別の強制執行や仮差押などがなされた場合に、これらを排除する手立てがありません(破産や特別清算など法的手段の場合には、これらを排除する手立てが用意されています)。したがって、任意整理に強硬に反対する債権者がいる場合には、任意整理を選択することは困難です。
(c) 結論
以上のようにしてみると、破産よりも清算型任意整理を選択した方がよい場合というのはかなり限定的です。実際上も清算型任意整理は多くの困難を伴うことから、確実に会社など法人を清算するためには、一般的に自己破産を選択した方がよいといえます。
(ハ) 自己破産か特別清算か
特別清算と破産とでは、主な相違点として以下のようなものがあります。
(a) 破産は「支払不能」または「債務超過」のいずれかの状態にあることが手続開始の要件となっていますが、特別清算は、「債務超過の疑い」があることも手続開始の要件とされており、破産の一歩手前の段階でも会社を清算できる方法といえます。
(b) 建前では、破産は手続が厳格で、時間と費用がかかるのに対し、特別清算は簡易迅速でコストのかからない手続と言われます。
しかし、実際には、破産の場合も、簡易迅速化・低コスト化が図られており(東京地裁での「少額管財手続」、大阪地裁での「一般モデル」など。「少額管財手続」の場合で予納金標準額は20万円)、この点での差異はほとんどないと言ってよいでしょう。
(c) 特別清算を利用できる法人が「解散した」「株式会社」に限られるのに対し、破産の場合にはそのような制限はありません。
なお、株式会社が解散をするには、株主総会で総株主の議決権の過半数の株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
他方、破産の場合、取締役会だけで破産を申し立てることができます(取締役会の決議がなくても、取締役が単独で申し立てることもでき、この場合を「準自己破産」といいます)。
(d) 特別清算の場合、協定案が債権者集会で可決されるか(可決要件は、簡単に言うと、債権者の頭数の過半数、および、債権額の総額の3分の2以上の賛成)、あるいは、債権者ごとに個別に和解が成立することが必要です。
他方、破産の場合はこのような債権者の同意は必要ありません。
(e) 破産の場合、債権が存在するかどうかや債権の額について争いを確定するための手続や、「否認」のための手続がありますが、特別清算にはこれらの手続はありません。
したがって、特別清算を利用するためには、株式会社であること、多数派株主の同意、それから、少なくとも大口債権者の同意が必要となります。
このことから、多数派株主および大口債権者の同意を得られる見込みがない場合には、特別清算は利用できないことになります。
また、一般に、株主および債権者が多数存在する場合や、債権の額に争いがあったり、「否認」の対象になるような行為が存在したりする場合には、特別清算は不向きといえます。